不倫の慰謝料請求への反論


破綻の抗弁とは

不倫が違法となるのは、被害者である一方配偶者の、結婚生活の平和という権利利益を害するからです。

そのため、夫婦の婚姻関係が破綻していた場合には、特段の事情がない限り、守られるべき権利利益がないということになります。

そこで、不倫の慰謝料請求をされた場合には、「不倫よりも前に、夫婦関係が破綻していたこと」を反論することになります。これが、破綻の抗弁です。

cb4382a10755eafa1522ec7ba4c1025f_s最高裁判所も、「Aの配偶者Bと、第三者Cが肉体関係を持った場合において、AとBとの婚姻関係が既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、Cは、Aに対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である」と判示しています(最高裁判決平成8年3月26日)。

ただし、破綻の抗弁が採用されるのは、かなり限定された場合となっているようです。以下では、破綻の抗弁が採用された裁判例をご紹介します。

同居中、破綻の抗弁が認められた裁判例①

(岡山地裁平成17年5月17日判決)

妻(64歳)が、平成12年12月8日、夫と不貞相手がラブホテルへ入室したことが不貞行為にあたるとして、不貞慰謝料500万円を請求した事例。

夫婦喧嘩のイメージイラスト被害者である妻と夫は平成10年4月頃から家庭内別居状態だった。
平成11年5月25日には被害者から夫に離婚を迫り、夫も被害者に愛情を抱いていなかったが、未婚の娘2人がいたため、夫は世間体を気にして離婚に応じなかった。
妻は、平成11年7月には、夫に自らの勤務表を見せることもやめ、別生活を送るようになった。
妻は、平成12年3月14日付の公的書面に、「主人とは、全くといっていいほど口を聞きません」と記載した。

裁判のイメージイラスト⇒裁判所は、これらの事実を踏まえ、平成12年12月8日より前に、被害者と夫の夫婦関係は完全に破綻していたとして、不貞の抗弁を認め、慰謝料請求を棄却した。

解説

弁護士竹下龍之介画像この事案は、夫婦が同居していた際に不貞行為があったと妻側が主張した事案において、破綻の抗弁が認められた、珍しいケースです。

不貞以前の夫婦関係について、不貞の被害者側からも離婚の話が出るなど離婚話が進んでいたことや、互いの生活に関心をもたず別生活を送るなど、実質的に家庭内別居状態にあったことが証明されたことから、破綻の抗弁が認められたといえます。

公的書類に、被害者の妻自身が、夫婦関係が破綻していることを伺わせる記載をしていたことも、客観的に破綻を示す事情として重視されたのではないでしょうか。

 

破綻の抗弁が認められた裁判例②

(岡山地裁平成17年4月26日)

夫(51歳)が妻に対し、不貞慰謝料600万円を請求した。

逮捕のイメージイラストこれに対し、妻は、夫の不貞により婚姻関係が破綻していたことを主張した。
夫は、妻と別居し、不貞相手と同棲していた。そして、不貞相手方にいたところ、警察官に逮捕された。逮捕当時、不貞相手と夫の間には肉体関係があった。
妻は、夫が逮捕された後の平成11年4月29日、夫に知らせずに、子どもと共に転居した。
妻は、転居後、別の男性と交際した。

裁判のイメージイラスト⇒裁判所は、これらの事実を踏まえ、夫婦関係は、夫の悪意の遺棄と不貞により、妻が夫から身を隠した平成11年4月29日時点で完全に破綻したとして、妻側の不貞の抗弁を認め、夫の慰謝料請求を棄却した。

解説

弁護士森内公彦画像この事案は、当事者双方が相手方の不貞を主張するというやや珍しいケースでしたが、妻子を置いて不貞相手の元に走ったという夫の行為により、夫婦関係が破綻したと認定されました。

判断にあたっては、別居の有無と、それに至った経緯が重視されたといえます。

 

 

破綻の抗弁を主張する際に重視される事情

 

別居の有無

別居のイメージ画像不倫が違法となるのは、不貞行為があったとされる時期に、夫婦が同居を継続していたか、既に別居していたのかという事実は、必須の要件とまではいえませんが、重要な意味をもつとされています。

別居の期間は、離婚裁判の中で夫婦関係が破綻していると認められるために必要な期間ほど長期間でなくともいいとされているようですが、それでも半年や1年の別居では破綻を認めていない裁判例が多いように思われます。

なお、いったん別居したとしても、後日再び同居した場合には、破綻が否定される傾向にあります。

 

 

離婚話が進んでいたこと、離婚調停申立ての有無

話し合う夫婦のイメージ画像破綻と認められるためには、離婚の話が具体的に進んでいる必要があります。夫婦間で離婚の話が出たり、離婚届を作成していたりするだけでは不十分です。

離婚調停が申し立てられていたという事実も、直ちに破綻と認められるものではないようですが、他の要素と合わさって、破綻を認める方向に働く可能性はあります。

 

 

夫婦仲が冷えきっていること

寂しいイメージ画像不貞をしたとされる配偶者が、夫もしくは妻に強い嫌悪感を持っていたり、将来離婚したいと固く決意していたりしたとしても、直ちに破綻とは認められません。ただし、さらに進んで、家庭内別居状態にまで至っていたという事実が証明できれば、破綻していたと認められたこともあります。

以下のチェックリストに多数チェックがつくのであれば、夫婦仲が冷え切っていることを理由に破綻を主張することは難しいでしょう。

 

チェックリスト

チェックのイメージイラスト 家族旅行や行事等を行っていた

 性交渉があった

 同じ寝室で就寝していた

 一方が家計管理を担っていた

 互いの生活に関心を有していた

破綻の抗弁が認められるか否かについては、専門的な判断が必要ですので、離婚問題を専門とする弁護士へご相談されることをおすすめします。

 

 

慰謝料の支払義務

破綻の抗弁が認められない場合でも、不貞相手が、被害者とその夫(妻)との夫婦関係が、不貞当時既に破綻していると信じ、かつ信じたことに過失がない場合には、不法行為は成立せず、慰謝料を支払う必要はないと解されています。

ただし、不貞相手が交際相手は既婚者であることを認識している場合には、安易に不貞関係に入らないように注意すべきですし、不貞の誘い文句として、夫(妻)との関係が破綻していると嘘をつくことは多いです。

そのため、信じたことに過失がないとされるには、交際相手の言葉を信用したと主張するのでは不十分で、その言葉を裏付ける根拠があったことを主張する必要があり、この反論は簡単には認められないでしょう。

弁護士勝木萌相談風景画像画像裁判例においても、不貞相手が、交際相手から、夫婦関係がうまくいっておらず、離婚の話が進んでいると聞かされており、職場の同僚からもその旨の話を聞いていた場合でも、当時、交際相手が妻と子どもたちと自宅で暮らしていたことを知っていた場合に、婚姻関係破綻について過失があるとされ、反論は認められませんでした。

なお、慰謝料支払義務の有無については、専門的な判断が必要ですので、離婚問題を専門とする弁護士へご相談されることをおすすめします。

不倫(不貞行為)と慰謝料について、くわしくはこちらをごらんください。