コラム㊱10年以上先に支給される退職金などは財産分与の対象?

退職金等が財産分与の対象となることについて

悩む夫婦ご相談で、
「支給されるのはまだまだ先で、実際に支払われるのかもわからないのに、財産分与の対象になるのは納得がいきません。」
と言われる方はたくさんいらっしゃいます。

しかし、退職金は一般的に財産分与の対象とされます。

これは、退職金が賃金の後払的性格をもっていることから、婚姻期間に相当する部分の退職金は、夫婦で築いた財産と評価されることによります。

ここで、以下の判決を見てみます。

名古屋高裁平成21年5月28日判決

裁判官名古屋高裁は、夫の定年まで15年あることを考慮して、退職金と確定拠出年金の一部を清算的財産分与の対象とは認めませんでした。

ただ注意をしなければならないのは、その表現の仕方です。

名古屋高裁は、「直接」清算的財産分与の対象とはせず、扶養的財産分与の要素としてこれを斟酌するのが相当であると判断しています。

これは、結論からいうと、退職金が清算的財産分与の対象から外すことを一般的に認めたものではなく、あくまで特殊な事情を考慮した結果であるといえます。

まず、名古屋高裁は「退職金のうち、本件同居期間に対応する部分は、本来、財産分与の対象となる夫婦共有財産というべきである。」と判断していますので、退職金支給時期が10年以上先であることをもって一般的に退職金が分与対象にならないと考えているわけではありません。

次に、確定拠出年金についてです。

確定拠出年金について

当該判決での評価は、別居時が平成16年3月20日、確定拠出年金制度が導入されたのが平成17年10月1日である(=形式的には財産分与の対象から外れ得る)、しかし、別居から3年のうちに掛金が300万円を超えており、夫婦共有財産からの支出がなければ、それだけの積み立ては不可能であることから、確定拠出年金の一部は「同居期間中の蓄財等を原資とする部分が存在する可能性は否定できない」としています。

これはつまり、確定拠出年金の一部は財産分与の対象となることを示しています。

 

 

 

なぜ清算ではなく扶養的財産分与としたのか

弁護士本村安宏そうすると、なぜただ清算するのではなく「扶養的財産分与」としたのかです。

判決文を見ても退職金の額や確定拠出年金の額が出てきません。おそらく、その金額がわかる証拠が提出されなかったのだと思います。

特に確定拠出年金については、上記のような曖昧な判断をしており、同居期間中の蓄財から支出されたのが具体的にいくらかは算定できなかったものと考えられます。

また、本件では、妻が共有不動産で居住することを望んでおり、長女が高校卒業するまで妻に対し共有不動産を賃貸するよう、夫に命じています。

この命令の根拠が「直接清算的財産分与の対象とすることが困難な退職金及び確定拠出年金についても扶養的財産分与の要素としては斟酌することが妥当である点を考慮」となっています。

要するに、
① 退職金等について本来は財産分与の対象とすべきものだが、具体的な数字がわからない
② 妻が共有財産に住むことを望んでいる
という状況下で、②を認めるために、退職金等を「直接的な」財産分与の対象から外し、扶養的財産分与として②の根拠にした、というのが正しい解釈と考えられます。

家財道具本件は、妻が共有不動産であるマンションの取得のために移転登記手続きを求めていた事案でした。

名古屋高裁は、清算的財産分与としては、マンションを夫に取得させ、扶養的財産分与として、夫が取得するマンションを妻に賃貸するように命じることでバランスをとった解決を図ったものといえます。

このような特殊な事情を受けて判断されたものですので、退職金や確定拠出年金が将来支給されるものであったとしても(支給が10年以上先であったとしても)、直ちに財産分与の対象から除外することを認めたわけではないことによくよく注意しなければなりません。

 

 


この記事を書いた人

弁護士 本村安宏

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