離婚コラム㊴離婚コラム:子どもの引渡しについて異例の判断

掲載日:2019年5月14日|最終更新日:2019年5月15日

最高裁決定について

平成31年4月26日に最高裁判所が子どもの引渡しについて、異例の判断を行いました。

この点について、離婚問題に詳しい当事務所の弁護士が解説いたします。

この事案は、以下のような内容になります。

事案の概要

父と母の子ども(当時9歳)の奪い合いの争いが起き、母親が勝利し、負けた父側が裁判所から子どもの引渡しの命令を受けた。

しかし、子どもは、母親に引き渡されることを全身全霊で拒んだ。

その程度は極めて強く、呼吸困難に陥る程であった。

そこで、母親は、父親に子どもの引渡しを実現させるために、間接強制(イメージ的には制裁金のようなもの)の申立てを行った。

その間接強制の申立てに対し、地方裁判所、高等裁判所は、母親の申立てを認め、父親に対し引渡しまで1日1万円の支払いを命じた。

それを不服として、父親は、最高裁判所に不服申立てを行った。

最高裁の判断

これに対し、最高裁は、子どもが母親との同居を強く拒絶していることから「子どもに有害な影響を及ぼさずに引き渡すのは困難だ」と指摘した上で、子どもに有害な影響がある場合は、父親に制裁金を課して引き渡しを強制することはできないとする判断を示しました。

 

弁護士の考察

この事案は、ニュースでもとりあげられているため、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、そもそも子どもの奪い合いがどのような手続でなされるかは解説されていないようですので、この機会に解説したうえで、当該判断について私見を述べたいと思います。

前提として、日本では、未成年の子どもがいる場合、離婚の際に親権者を定めなければ、離婚が成立しません。

そのため、時に、親権は離婚時の一大争点となり、親同士が壮絶な争いを繰り広げることになります。

そして、親権問題に決着をつけるための方法として、法は「監護者指定・子どもの引渡しの審判」というものを用意しています。

これは、家庭裁判所の裁判官が、父と母どちらが監護者(誤解をおそれずにいうなら、この場面では親権者と同義ととらえても良いと思います)にふさわしいかを判断する手続です。

視点としては、種々ありますが、私の実務感覚では、

  • 従前の監護実績からどちらが主たる監護者であったか
  • どちらかが監護者となった方が子どもの福祉(「幸せ」と読み替えても良いでしょう)にかなうか

を裁判所は重視して判断しているように思います。

子ども

仮に、子どもが父親に連れ去られてしまったものの、監護者指定の審判で母親が監護者に指定されたとすると、母親は父親に対し、子どもの引渡しを求めることができます。

そして、父親がそれを拒んだ場合には、強制執行が可能です。

私も経験があるのですが、父親と子どもが住む自宅に執行官が赴き、子どもを説得して連れていくという形になります。

本コラムの最高裁の事案では、この強制執行の場面で、執行官が9歳の子どもを説得したものの子どもが激しく泣いて呼吸困難に陥りそうになるほどの強い拒絶を示しました。

そのため、執行が不能となってしまったようです。

そこで、直接強制が難しいために、母親は次の手段として、間接強制というものを申立てました。

これは、父親に任意の引渡しを促すための制裁金を裁判所を通じて課すというものです。

裁判しかし、最高裁は、本件では子どもに有害な影響を及ぼさずに引き渡すのは困難であるところ、子どもに有害な影響がある場合は、父親に間接強制することはできないとする判断を示したのです。

本件の最高裁の判断は、子どもが激しく拒んでいれば、例え、監護者に指定されたとしても引渡しを受けることができないという点で、「監護者指定・子の引渡しの審判」という制度を骨抜きにする可能性があります。

最高裁も、その点は考えているようで、通常は子どもの意思にかかわらず、引き渡しを実現するべきだとしています。

しかし、監護者指定・子どもの引渡しに携わる弁護士としては、本件の最高裁の判断によって、今後、監護者に指定されたものの引渡しは受けれないという事例が増えてしまうのではないかという懸念は拭えません。

そもそも、監護者指定・子の引渡しは、親同士が本当に真剣に争いますので、結論がでる頃には、どちらの結論になるにせよ、双方が相当に疲弊しているのが率直な感想です。

監護者指定を争う親は、皆、子どもの将来のために、自分が育てていく方が絶対に良いのだという強い信念があります。

それは、辛く長い闘いになりますが、裁判所に監護者に指定されれば子どもの引渡しを受けることができるという未来が待っているからこそ、頑張れるものです。

しかし、裁判所から監護者に指定され、引渡しを受ける権利を得たにもかかわらず、本件のように、それが実現されない可能性があるというのでは、あまりにも酷と言わざるを得ません。

したがって、私は、本件の最高裁の結論には反対です。

弁護士竹下龍之介

 

 

まとめ

本件の結論に正当性をもたせるなら、子どもの意思は監護者指定・子どもの引渡しの場面において、現在の裁判実務以上に子どもの意思は重視されるべきであると思います。

現在の裁判実務では、13歳程度を目安に子どもの意思が重視される割合が強まっているように個人的には感じますが、9歳程度の場合には考慮要素の一つにすぎず、決して重視されているわけではないようにも感じているからです。

本件の事案でも、監護者指定・子どもの引渡しの審判(最初の争い)において、当初から、子どもの意思を重視して、父親が監護者に指定されるべきだったのではないでしょうか。

その意味で、本件の最高裁の判断は、監護者指定に基づく間接強制の可否の判断にとどまらず、監護者指定の判断枠組みそのものにも影響を与えうる(=子どもの意思がより重視されるようになる)可能性があります。

本件の最高裁の判断が、子どもの引渡しの裁判実務に与える影響が注目されます。

 

 

 


この記事を書いた人

弁護士 竹下龍之介

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